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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

初めての飛行機


              ≪八月十六日≫     ―壱―




  8:30、ドアをノックする音で、目を覚ました。


 仲間の誰かが、合図をしていったに違いない。


 洗面を済ませると、希望者を募って郵便局を探しに外へ出る事になっ

た。



  話が通じず、イライラしながら、やっと見つける。


 値段の方は、封書(6元≒55円)、ハガキ(4元≒35円)。


 とまあ・・・・苦労しながら、何とか日本への第一報を台北から郵送

する事に成功した。



  郵便局からの帰りに、木瓜(モカ)のジュースとパンで朝食を

とる。


 昨日に比べて、少し落ち着いてきたようだ。



  ホテルに戻ると、早速荷物の整理をし、何組かに別れて、泰国

航空の代理店へとタクシーを走らせる。


 代理店に到着。


 カウンターには、若い女性達が我々を今か今かと待ち構えていた。


    「台北~香港~タイのチケットはありますか?」


    「ちょっと待ってください。」


    「可愛い子やねー!」


 と、鉄臣がのたまう。


    「今、満席ですね!キャンセル待ちしますか?」


    「そうですね、キャンセル待ちでお願いします。」



  その場で、出国税150元(≒1300円)を加えて、チケッ

ト代US$210.4を支払った。


 キャンセル待ちのため、ここで完全に三組に別れる事となった。


 二人の脱藩者組、チケットの関係で少し遅れる事となった後発組、そ

して我々四人の先発組だ。



  先発組の四人は、その場でチケットを受け取ると、台北空港へ

と向かった。


 ”たとえただでも飛行機には乗ってはいけない!”と言う今大会の連

盟規約にもうすでにひっかかるはめになってしまった。


 会長が事前に船を捜してくれたのだが、貨物船しかないらしく、その

貨物船には旅行者を乗せないという事で、諦めなくてはならない事態に陥っ

てしまったのだ。


 面倒臭いことは全て会長任せという、我々のなんとだらしない事か。



  急ぎカウンターで手続きを済ませ、ボーディングカードを受け

取り、バックパックを飛行機に載せる為、ベルトコンベア―に放り投げられ

た。


    「オイ!もっと大切に扱ってくれないかなー!」


    「?」


    「放り投げるなよー!」



  TG611便だ。
 12:30発という事で、フリータッ

クス・ショップで、満足に買い物もできないうちに待機室へと走った。


 ところが、待機ロビーにきてガックリ!


 走れと言われ、息切って走って待機室まで来るが、一向に搭乗アナウ

ンスがない。



  予定の12:30が過ぎても、なんの音沙汰もない。


    「どうなってんのかな?」


    「時間通りには動かないのが日本と違う所かな。」


    「日本って、ホンマに良い所やなー!」


    「良いかどうかは、その人の価値観の違いかな。」



  やっと、アナウンスがある。


    「何て言ってるの?」


    「どうもこれから乗る飛行機の修理をするから、ちょっと待っ

       てくれって言う事らしいぜ。」


    「ええ!これから修理するの????」


    「飛行機替えてくれんかなー!」


    「この国に代替の飛行機なんて用意している訳無いじゃん!」


    「ほんとに修理できるの?」



  窓から我々の乗るはずの飛行機がすぐそばに見える。


    「あの飛行機なん?」


    「あれらしいな!」


    「あれ?鼻先なんかガムテープでひっつけているで~!」


    「ほんまや―!」


    「あんなんで、ほんまに飛ぶの~!」


    「安いだけあって、代わりの飛行機まで用意できないんだよな

       ー!」



  14:00、ついに機内食が待機ロビーに運ばれてきた。


 その他にも、ジュースとかアイスティ―が、スチュワーデスやアシス

タント・パーサーの手によって、乗客たちに配られ出した。



  実に待つこと四時間半、やっと修理が済んだらしい。


    「ホンマにちゃんと修理したんやろね―!」


    「さあー??」


 初めて乗る飛行機が、こんなにポンコツとは、我々に相応しいではな

いか。


 やっと、搭乗のアナウンスが待機ロビーに響いた。



  飛行機に乗り込むと、左主翼のすぐ後ろに席を取った。


 ゆっくりと飛行機が滑走路に誘導される。


 滑走路に着いたと思ったら、いきなりジェット噴射が始まり、ガタガ

タと機体を揺らしながら飛行機はすべり出した。


    「ガタガタ揺れてるけど、大丈夫なんかな?」


    「少しは揺れるさ!」


    「でも、ガタガタやで??」



  一気にスピードを上げる。


 身体がグングンと後ろへ引っ張られた瞬間、機体と一緒に身体もフワ

ッ!っと浮き上がった。


 16:50、出発する寸前、修理をしたポンコツ飛行機は、我々を乗

せて台北空港を静かに?離陸した。



  小さな窓から大きく見えていた台湾がだんだんと小さくなって

行く。


 飛行機はグングンと高度を上げていく。


 台湾の陸地が完全に雲に遮られて、青い空と白い雲の世界へと飛行機

は吸い込まれていった。


 空から見下ろす雲の芸術は、地上からは想像できないほど雄大で、自

然の神秘と偉大さを感じさせてくるに十分だった。



  原子爆弾のような雲が地球の空を圧倒している。


    「これが大自然なんやね!」


    「下からはこんなん見えへんもんな!」


    「感動もんやわ、これは!」


    「雲に乗れそうやね!」


 飛行機は猛烈なスピードで飛んでいるというのに、飛行機の中にいる

我々にとっては、青い空にポッカリと浮かんでいるような、そんな錯覚に陥

ってしまいそうな気持ちがする。



    「うめ―ナ!」


 隣では、若狭がサービスで出された”Carlsberg Beer”を美味そうに

飲み干している。


 会長と新保君の二人は我々と少し離れた席に座っていた。


    「雲の上で、こうしてシートに座ったまま、ビールを飲めるな

     んて・・・こんなもん誰が考えたかな?凄い人やね、その人!」


    「こんな重たいもんが、こんだけ大勢の人を乗せて、雲と一緒

       に浮かんでるんやから、凄いの一言やわ。」



  青い空に白い雲、青い海に白い船、それらすべてを俺は今自分

の物にしている。


 飛行機を信じない俺が今ここにいる。


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